〈講評トーク〉第6回審査を終えて。感想と、心に残った作品

レポート

2022/05/06

 

 

2022年3月某日、第6回写真出版賞の審査が開催されました。

 

審査決定後、審査員を務めた青山裕企氏・則武弥氏・松崎義行氏・谷郁雄氏が本音で語ったトークを公開します。

 

どのような視点で審査が行われ、どんな作品が選ばれたのか。

 

応募した方も、これから応募する方も、ぜひご覧ください。

 

 

 

《 審査員たちのプロフィール 》

  

 

青山裕企(Mr.Portrait / 写真家)

『ソラリーマン』『スクールガール・コンプレックス』『少女礼讃』など、 “日本社会における記号的な存在”をモチーフにした作品を制作している。 本賞では第1回から特別審査員を務める。

ウェブサイト https://yukiao.jp

 

 

則武弥(デザインディレクター)

ペーパーバック代表。CI、VI、教科書のデザイン他、「典型プロジェクト」でのプロダクト開発、詩のデザインレーベル「oblaat」、「東京ピクニックラブ」で活動。グッドデザイン賞他受賞多数。本賞では第1回から審査員を務める。

ウェブサイト https://www.paperback.jp/

  

 

松崎義行(出版社みらいパブリッシング代表取締役 / 編集者 / 詩人 / 作詞家)

本賞の提携出版社みらいパブリッシングの代表取締役。15歳で第一詩集「童女 M-16の詩」を刊行。以来、詩、作詞、エッセイ、編集など出版や表現に関わる多数の活動を行っている。本賞では第1回から審査員を務める。

 

 

谷郁雄(詩人)

1955年三重県生まれ。同志社大学文学部英文学科中退。大学在学中から詩作を始める。90年『死の色も少しだけ』で詩人デビュー。写真家とのコラボレーション詩集も数多く刊行されている。作品は、合唱曲『出来そこないの天使たち』になったり、「どこにもない木」が中学校の教科書の巻頭詩として掲載されたりしている。詩集に『愛の詩集』『透明人間・再出発』『バナナタニ園』『大切なことは小さな字で書いてある』『詩を読みたくなる日』ほか多数。

 

※ 審査員は計6名おり、このメンバーは全員ではありません。

 

 

 

 

審査の感想

 

 

青山:

今回からウェブ応募がはじまって、前回までは応募しようと思わなかったような人も応募してくれたのだなと思いました。本当に幅広い写真表現に出会うことができました。

企画意図もしっかり書いてくれている人が多くて、作品をまとめようという意識が前回より一段上がっている気がしました。

 

特別審査員を務めた写真家の青山裕企氏

 

松崎:

出版社として「写真集をつくる」という目線で見ると、いい本になりそうなものがすごく多かったです。本をつくるという意識で再構成したら、ここからいい本がたくさん生まれるんじゃないかな。

 

谷:

この賞がなかったら引き出しにしまわれていたかもしれない作品が、応募をきっかけに陽の当たる場所に出てきた。そんな気がしてうれしくなりました。

 

審査の様子

 

 

 

データ応募とプリント応募

 

 

青山:

データ応募の作品も、幅広い写真表現が見られました。ぱっと見たときの感動は、データもプリントもあまり変わらないのかもしれないと思いました。一方、比べることで、改めてプリントの応募作品の良さも実感したりしました。

データがあるからデータで応募するのではなく、自分の写真を人に見せるとき、データとプリントどちらが合っているのかな、という視点で選んでもらえたらと思います。

 

則武:

思った以上に審査が楽しかったです。今の時代はもはや、プリントありきで写真を撮っていない人が多いのかもしれないですね。でも、それはそれでいいことなのかなと思いました。

 

デザインディレクターの則武弥氏

 

 

 

 

青山裕企賞「to say good bye is to die a little」について

 

 

青山:

今回は、審査員特別賞に澤田詩園さんの「to say good bye is to die a little」を選びました。シンプルに「これだ」と思ったので、決めるのは簡単でした。

さりげない写真だけれど、1点1点の完成度が高いんです。スマホっぽい写真というのはだいたいクオリティにむらがあるものだけど、この作品は、安定してずっとレベルが高いんです。

 

「to say good bye is to die a little」澤田詩園

 

松崎:

目が光っている写真が好きです。なかなかこういう写真を撮ってこういう風に出せる人はいないんじゃないかな。

 

青山:

そうですね。しっかり演出されているものが多い。だから1枚1枚が強いんですよね。のびやかで、ノイズも気にせず。新しい世代の写真という感じ。巧みですよね。

 

則武:

スタイルを感じますよね。色々気にせず貫いている感じが、すごく潔い。

 

青山:

モニターで見るとすごくいいですが、写真集にするとどうなるのか気になります。紙は、つるつるだったり薄かったり、色々な種類を入れてもおもしろいかもしれないですね。




 

大賞「鳩と烏と」について

 

 

青山:

船見征二さんの作品ですね。すごくいいですよね。でも、これが大賞に選ばれるってすごい賞だなとも思いました(笑)

 

谷:

「鳩と烏と」って、タイトルがまたすごいよね。

 

松崎:

僕、写っているものがぜんぶ鳥に見えちゃって、おかしくてしょうがなかったんです。ずっと笑いながら見ていました。転がっている椅子すら鳥に見えるんですよ。

 

「鳩と烏と」船見征二

 

青山:

ご本人が意図しているか分かりませんが、写真がぜんぶ、傾いているんですよね。不穏だし、心がざわつくんですよ。そうとう写真がうまくないとできない表現かなと思います。

 

松崎:

作家であると同時に、編集者の目線が備わっている方なのではないかと思いました。本当に面白い作品です。

 

提携出版社社長の松崎義行氏




 

アート部門で印象に残った作品

 

 

青山:

最優秀賞の「唯美な肖像」は、肉眼を超えて見たことのない世界を美しく描いていて、素晴らしいと思いました。技術がないとここまで安定して撮ることはできないので。

 

「唯美な肖像」長谷康平

 

あと、優秀賞の「厳寒の神秘ライトピラー」ですね。こんな現象があるとは知らなかったのですごいなと思いました。今は海外に行きにくいので、国内を旅したいという需要を高めるきっかけになるかもしれませんね。

 

「厳寒の神秘ライトピラー」 やすいれんぺい

 

松崎:

ビジュアルブックにしたいですよね、こういう作品は。





 

ドキュメンタリー部門で印象に残った作品

 

 

青山:

最優秀賞の「色鳥鳥」。こういうクオリティの高いものを安定してずっと見せてもらうと、それだけで満足ですよね。息を呑みます。鳥って美しいですよね。鳥こそ、カメラの進化により撮れるようになった被写体なので、今だからこそ残せる作品なのではないかと思います。一流のプロしか撮れないものです。

 

「色鳥鳥」KUDOS

 

松崎:

バラエティ部門にも「遊びじゃないんだ、水浴びは!」という鳥の作品がありますが、今回、本当に鳥の写真が多かったですよね。本当に、鳥だらけ。

 

青山:

あと、優秀賞の「写真からみる空間のすすめ」は、本当に面白かったです!

 

則武:

僕も、最高評価をつけました。

 

青山:

これ、ぜんぜんマスに向けてない感じですよね。一般の人がついていけない領域。でも、読んでみると文章も図も分かりやすくて、ちゃんと専門的なところから降りてきてくれている感じなんです。このまま、このまじめな感じで本になれば、すごく面白いと思います。

「写真からみる空間のすすめ」海

 

則武:

建築家にはウケると思いますよ。初めて見るタイプの作品ですよね。

 

松崎:

タモリ倶楽部とかで取り上げられそうな感じですよね。こんな作品が写真出版賞から出版されたらすごく面白いですね。

 

青山:

あと、奨励賞の「妻の、妻による、ぼくらのための日々。(仮)」も良かったです。

 

則武:

不思議ですよね。料理本かと思いきや、そうではなく。

 

谷:

料理を見せつつ、妻への愛や感謝の気持ちを回り道するように表明している。

 

青山:

この作品について、みなさんと話したかったんですよね。なにかを加えたら、いい本になりそうな感じなんですよ。何があったらいいのかなぁ。


「妻の、妻による、ぼくらのための日々。(仮)」AKIPIN



松崎:

食卓がありながら、そこに生きているはずの人間があまり出てこないんですよね。

 

青山:

もう少し、人に感情移入できてもいいのかな。『ダカフェ日記』というヒットした写真集が過去にありましたが、そのテイストに近い気がするので、もう少し奥さんや家族のキャラクターが出るといいのかもしれません。

 

松崎:

優秀賞の「牛のまなざし・被災地での挑戦(仮)」はどうでしたか。放射能で出荷することができなくなった牛を殺処分せずにお世話しているという写真です。


「牛のまなざし・被災地での挑戦(仮)」uesayu

 

青山:

たんたんと優しい眼差しで撮っているなという印象です。もっと残酷に撮ることもできると思うのですが、あえて最小限に抑えているように見えました。

 

松崎:

むりやり悲しみの方向にもっていってないんですよね。

 

則武:

問題提起をしているのかそうではないのか。どこを根っこにして作品を見ればいいのか定まらない感覚はありました。もう少し情緒的なものが1枚でも入っているといいのかもしれません。

 

青山:

編集の仕方でまた見え方も変わるかもしれませんね。

 

松崎:

そうですね。提出しなかった写真にもいいのがあるかもしれませんし。




 

バラエティ部門で印象に残った作品

 

 

松崎:

最優秀賞の「遊びじゃないんだ、水浴びは!」はどうでしたか?

 

谷:

本当にかわいいですよね。鳥は真剣そのもの。たしかに水浴びは遊びじゃない(笑)。

 

「遊びじゃないんだ、水浴びは!」tokyoShiori

 

青山:

鳥は表情がないので、こわいと思う人もいるんですよ。でも、この写真は「水浴び」によっていい世界に入っている気がします。手の届く範囲のテーブルフォトでこんな表現ができるんだ! と思いました。写真が上手くないとだんだん飽きてくるけど、これは全然飽きないんです。ただ撮っているだけじゃないんですよね。

 

則武:

ちゃんと、グラビア写真なんですよね。素晴らしいと思います。

 

松崎:

ぼくはこの作品を見て「鬼滅の刃」を思い出しました。壱ノ型とか弐ノ型とか。とにかく色々なポーズがあって飽きないですね。

 

青山:

あと、気になったのが「ねこはいる(仮)」ですね。

 

松崎:

写真のどこかに猫がいるというやつですね。『ウォーリーをさがせ』みたいな。面白いですよね。ゲームみたいで盛り上がっちゃう。

 

「ねこはいる(仮)」りーにゃ

 

青山:

本当に全部の写真に猫がいるのかな、と思いました。けっこうむずかしいんですよね。

 

松崎:

キャプションに、猫の居場所に関することが書いてあるのですが、それもまた面白いんですよね。

 

青山:

それから、SUBARUさんの「セルフで残すということ」は、とてもいい距離感で撮られたポートレートでしたね。本になったときにどんな人が買うのだろう、というのは想像する必要があると思いますが。

 

「セルフで残すということ」 SUBARU

 

松崎:

「セルフで撮ったらだれでも主人公になれる」というテーマで出版するのもいいのではないでしょうか。

 

青山:

あと、浮遊人さんの「零重力~浮遊人の日常~」も、すごく面白いですね。

 

松崎:

北海道とか奈良とか、いろいろなところに行かれていますよね。「飛んでいける観光名所」のようなテーマで、観光ガイドのような本にするのも面白いと思いました。その土地の情報を文章で紹介したりして。

 

「零重力~浮遊人の日常~」浮遊人

 

青山:

面白いのですが、だれが飛ぶのか、その人がどんな人なのか、をもう少し考えたほうがいいかもしれません。ご自身が飛ぶのなら、自分のキャラを自覚することが大切です。たとえば、この方は研究のお仕事をされているそうなので、白衣を着ているとか。身長が194㎝らしいので高さを生かすとか。なにか特徴を出すともっといいと思います。




次に出会いたい作品

 

 

谷:

次に出会いたい作品かぁ。それは、こちらが出会いたいと思っているものの、想定を超えた作品ですよね。

 

詩人の谷郁雄氏

 

青山:

私の専門分野ということもあり、ポートレート作品はもっと頑張ってほしいですね。表現方法や撮影意図など、まだまだ考える余地があると思います。

 

則武:

ポートレートに関して言うと、全体的にクオリティは上がりましたが、気持ちは下がってしまったような感じがします。それだったら、クオリティは気にせずスマホで自由に撮ればいいのにと思います。いいカメラで撮ってコンセプトは何もないというところからはやく抜け出してほしいですね。お見合い写真をたくさん見ているような気分になりました。

 

青山:

モデルの方をいかに美しく見せるかを追求する世界もあるんですよね。それをやっていきたいという人は、モデルさんの魅力を伝えるフォトブックをつくったりすればいいと思います。でも、写真集はそうではないので。

街中で綺麗な花の写真を撮って、ただ集めても写真集にはなりません。それと同じで、若くて美しい女性の写真を撮るだけでは、なかなか写真集としての広がりが期待できないんですよね。

その人にとっては素敵な写真かもしれないし、撮られた人にとってもいい思い出になると思いますが、モデルと写真家だけの関係に閉じこもっていてはだめなんです。

 

青山裕企氏の作品「少女礼讃」

 

松崎:

いま、第5回で奨励賞を受賞したPDさんの写真集をつくっているところなのですが、被写体のみうみうさんの個性を出したくて、手描きの文字を入れたり、新しい広がりをつくろうとしています。

 

青山:

PDさんは、どうしてひとりの人をこんなにずっと撮り続けているんだろう、という面白さがありますよね。写真を撮り写真集をつくる上で、切実さや熱量というのは、本当に大事だと思います。

 

松崎:

写真集以外の話でいうと、図鑑やビジュアルガイドはよく売れる傾向があります。第3回で大賞を受賞した『四季彩図鑑』が良い例です。今回の応募作「厳寒の神秘ライトピラー」も、そんな本になるかもしれません。写真を使って何ができるか、という観点での応募も期待したいです。2冊目の本を出す人も増えているので、いい本を出して写真の世界を盛り上げていきたいと思います。





以上、第6回写真出版賞の審査員による講評トークでした。

まだまだ話は尽きず、白熱トークは数時間続きました。

 

すべての作品のコメントはお伝えできませんでしたが、自分の作品がどんな感想を持たれたのか気になる人は、ぜひ出版社とのミーティングに参加してみてください。

 

出版して良い本になるかどうかが審査のポイントとなる、出版に特化したコンテストのため、写真集やヴィジュアルブックを出すための参考情報も手に入ると思います。

 

 

また、第6回で受賞したすべての作品の情報は、こちらの結果発表のページをご覧ください。