〈講評トーク〉第8回審査の感想 / 次回の応募に向けたメッセージ

レポート

2023/06/13

 

2023年某日、第8回写真出版賞の審査が開催されました。

審査決定後に行われた、審査員の青山裕企氏・則武弥氏・谷郁雄氏によるトークを公開します。

印象に残った作品と、選考のポイントなどについて話しています。

応募した方も、これから応募する方も、ぜひご覧ください。

 

 

《 審査員たちのプロフィール 》

  

 

青山裕企(Mr.Portrait / 写真家)

『ソラリーマン』『スクールガール・コンプレックス』『少女礼讃』など、 “日本社会における記号的な存在”をモチーフにした作品を制作している。 本賞では第1回から特別審査員を務める。ウェブサイト:https://yukiao.jp

 

 

則武弥(デザインディレクター)

ペーパーバック代表。CI、VI、教科書のデザイン他、「典型プロジェクト」でのプロダクト開発、詩のデザインレーベル「oblaat」、「東京ピクニックラブ」で活動。グッドデザイン賞他受賞多数。本賞では第1回から審査員を務める。ウェブサイト:https://www.paperback.jp/

 

 

谷郁雄(詩人)

1955年三重県生まれ。同志社大学文学部英文学科中退。大学在学中から詩作を始める。90年『死の色も少しだけ』で詩人デビュー。写真家とのコラボレーション詩集も数多く刊行されている。作品は、合唱曲『出来そこないの天使たち』になったり、「どこにもない木」が中学校の教科書の巻頭詩として掲載されたりしている。詩集に『愛の詩集』『透明人間・再出発』『バナナタニ園』『大切なことは小さな字で書いてある』『詩を読みたくなる日』ほか多数。

 

※ 審査員は計6名おり、このメンバーは全員ではありません。

 

 

 

審査の感想

 

青山:

ウェブ応募がはじまってから、パソコンに慣れていたり、デザインや適切な枚数を工夫して応募してくれる方が増えたような気がします。作品の見せ方が巧みなのはいいことですが、個人的には、もっと“無邪気”であってほしいなと思います。楽しくて撮る。あるいは、切実に、撮らざるをえなくて撮る。撮った先のことは、あまり考えなくてもいいのかなと。

それよりも僕が見たいのは、シャッターを切る前の心の弾みだったり苦悩、そこに至るまでのプロセスです。それらが現れている写真には、どこからどう見てもその人の写真だよねというその人らしさが出てきます。

見たいのは、巧い写真ではなく、魂を込めた写真です。僕はいつも、そういう写真を抜群に評価しています。

  

特別審査員 青山裕企氏

  

則武:

個人的には、審査する難しさを感じました。審査員の視点が、写真そのものにフォーカスするか、本の編集として作品を見るかで分かれていたように感じます。私は写真そのものを見るようにしてきたので、私が推す写真はほかの審査員には評価されないということが多々ありました。色々な視点が入ることでバランスがとれるのかもしれませんが、どこにフォーカスするかというのが今後個人的に考えたい課題かなと思います。

 

デザインディレクター 則武弥氏

 

谷:

僕は本の編集をする立場なので、則武さんのように写真そのものだけでは判断していません。今の時代はスマホでも気軽に写真を撮ることができるけれど、今までにない新しい作品を見つけるのが昔に比べて難しくなっています。だから僕は、編集の立場で「この本を作りたいか」「本にしたら面白いか」という基準で審査しました。どんな基準で審査するか、審査する側もそのことを問われているのだと思います。

 

詩人 谷郁雄氏

 

青山:

回を重ねるごとに少しずつ見えていく感じがありますね。わたしの場合は、自分の名前がついた賞がある立場なので、エゴを出して選んでいいと思っているところもあるのですが。

 

 

 

青山裕企賞「板板」 について

 

青山:

今回の大賞は、3作品の候補のなかで迷ったのですが、最終的にtwo_treeさんの作品を選びました。自虐的ですが、いかにも僕が選びそうだなという作品になりました。

自分の作品「少女礼讃」にも共通するものがあるかなと思います。あとは川島小鳥さんの「BABY BABY」に親しみやインティマシーを足した感じ。フィルムで撮っているのかな。フィルムをスキャニングしたような色をしています。これだけの量で最初から最後まで統一感があるのがすごいなと。

 

「板板」two_tree

 

たとえば50枚の写真があったら、1枚目を見ようが49枚目を見ようが同じものを感じるというのが、僕が思ういい写真です。クオリティが安定していて、捨てカットがない。どこから見てもその人の写真らしさがある。たとえモデルが写っていない風景写真を見ても、その人が撮ったとわかるくらいの“らしさ”がある。それが、この作品を選んだ本当の理由です。

 

「板板」two_tree

 

谷:

青山さんはよく海外の方の作品を選ばれていますよね。僕自身も、日本の写真家にこういう写真が撮れるのかなと思ってしまうことはあります。

 

青山:

なんでしょうね。撮る場所や着ている服が違うのはもちろん、変化のバリエーションに富んでいる方が海外には多い印象です。変化が多いということはたくさん撮っているということだから、情熱とも言えるのかな。あと、ただきれいな場所できれいなものを撮ろうとするのではなく、ちょっとこじれている感じ。

日本は成熟しきって表現が行き止まりにきてしまっているのかなと思うこともあります。せっかく作品を発表しても「〇〇と同じじゃん」と潰されてしまったり。

 

谷:

ほかの国だと日本のシーンとちょっと時差があるからおもしろいのかな。

 

青山:

無邪気さとか、1点1点の写真の密度とか。さりげなく撮っているようで、ちゃんと時間をかけているんですよね。だからクオリティが安定するのかなと思います。

  

 

大賞「まちのねにすむ」について

 

谷:

原啓義さんが都会のネズミを撮影した作品です。僕はこの作品を大賞に推した1人です。簡単に撮れるものではないので、よくこれだけのネズミの表情を撮れたなと感心しました。ドブネズミを愛らしいと思ってしまうのは、写真のマジックとも言えますが、とにかく夢中で見てしまいました。ふと、THE BLUE HEARTSの歌の「ドブネズミみたいに美しくなりたい」という歌詞を思い出してしまったくらいです(笑)

 

「まちのねにすむ」原啓義

 

青山:

野生のネズミってこんなにかわいい顔してるんですね。猫だとけっこう顔つきがワイルドになってきたりするのですが。

 

谷:

ドブネズミなのに毛並みもきれいでかわいい。大きなサンマをくわえて走ったり、カップルで行動したり、ほんとに都会の片隅で懸命に生きているんだなと、ちょっと感動しました。

 

「まちのねにすむ」原啓義

 

青山:

僕にも都会のネズミを撮っている知り合いがいるのですが、その方はネズミを都会の暗部というようなとらえ方をしているんです。一方、原さんはネズミを明るくとらえていますよね。草原からぴょこんと顔を出しているリスのような感覚で。

あとは見せ方についてですが、撮影されたのはすべて東京で、応募作の構成は街ごとに章立てになっているんですよね。本にするとしたら、都市で撮影されたこともタイトルやデザインで表現するといいかもしれません。あとは、渋谷とかの工事現場の白い壁に作品を展示してもおもしろいですね。ぜったい話題になりますよ。

 

 

 

アート・ドキュメンタリー部門で印象に残った作品

 

青山:

先ほどもちょっと話しましたが、僕の賞の候補になった作品が2つあります。ひとつは徐蓝星実さんの「小乖的蛹」という作品です。

撮る人も撮られる人も抜群に楽しんでいるのがいいなと思いました。撮って撮って撮るなかで深まっていく様子が感じられました。

撮影の舞台となった学校が取り壊されてしまうという背景に、作者の情があるのかなと思いました。被写体の女性との関係は明記されていなかったけれど、友達なのかな。どうしてこの女性でこの構図になったの?というのは少し気になりました。

 

「小乖的蛹」徐蓝星実

 

谷:

僕も、見ているうちにだんだん引き込まれて面白いなと思いました。スイートな感じもあって。

 

青山:

もうひとつは雨月さんの「FLYWAYS」という作品です。しっとりと内省的に考えながら、色々試してみている感じが出ていていいなと思いました。今後、写真を何十年と楽しんでいくなかの序盤のいい雰囲気が出ているなと。全体の統一感もありますし、こういう写真が額装されていたらほしいなと思います。

 

「FLYWAYS」雨月

 

 

谷:

「まちのねにすむ」と並んで大賞候補になった作品にも触れましょうか。Из Москвыさんの「Александр Хатаяшка」という作品です。

 

「Александр Хатаяшка」Из Москвы

 

則武:

今のロシアを伝える写真だと思います。音楽で例えると、同じ音符を使っても若い世代が曲をつくると全然違う、というような感じで、私にとっては新鮮でした。写真そのものもいいけれど、何よりも、ひとりの青年が執念で撮り続けているというところに惹かれました。

 

青山:

色味が独特ですよね。人々が持つロシアへのイメージはさまざまだと思いますが、なんとなく、この仄暗い感じがロシアっぽいなと思います。

サイバーパンクっぽいものや建築の直線的なもの、ナイトスナップなどが混ざっていて、その総体がロシアという捉え方なのかな。ただ、結果的にロシアの何に迫ろうとしているのかは、僕には見えてきませんでした。

 

谷:

建築物や光と影、それらを静かなまなざしで見つめる姿勢に共感しました。なぜ、夜景や地下の写真ばかりが多いのか?

 

青山:

推測ですが、昼間は仕事か学校に行っていて、夜に写真を撮っているのかな。写真しかない人という感じがします。そういう人、好きです。これを写真集にするなら大判カラーで見たいですね。見ごたえがありそうです。

 

 

 

エンターテインメント部門で印象に残った作品

 

青山:

この部門はなかなか難しいですよね。エンターテインメントって、人を楽しませることですよね。なかなかその視点を持つのは難しいですが、まずは写真家自身が無邪気に楽しむのがいいのかなと思います。見る人が、この人撮ってて楽しそうだな~と思うような写真がいいですよね。

僕はこの部門では、能能粥さんの「傷心楽園」が印象に残っています。打ち捨てられた感じがたまらないですね。かわいさと哀愁。

 

「傷心楽園」能能粥

 

谷:

遊園地=エンタメ。これがエンタメの末路だというメッセージなのかな。

僕は、くちくらさんの「角の丸い窓」という作品も印象に残っています。

 

青山:

僕もです。この作品は今回の偏愛大賞ですよね。

 

「角の丸い窓」くちくら

 

谷:

丸い窓の定義やルールもちゃんとあって。探しながら歩き回っているのかな。よくここまで集めたなと思いました。

 

青山:

常に探していますよね、間違いなく。ここまで撮るのは時間がかかると思います。

 

谷:

無人のところは撮りやすそうですが、営業中のお店とかは撮るのがむずかしそうですよね。

 

青山:

実際にどんなふうに撮っているのかはわからないですが、もしこっそり撮っていたとしたら、堂々と撮りきってほしいと思います。そして、たまに店主に怒られながらも仲良くなって「角の丸い窓愛好会」を名乗ってステッカーをつくって店に配りはじめたら、あと1年で「マツコの知らない世界」に出演できますよ(笑)

こういう切り口でここまでやってるのは見たことがないです。好きじゃないとできないですよね。誇りを持ってやってほしいなと思います。この形は何年代に多かったなどの考察も書いてあって、本当に楽しめました。

 

 

 

次に出会いたい作品

 

青山:

今回応募してくれた人も、次回また懲りずに出してほしいなと思います。勇気を出して全力で応募したぶん、落ち込んだりもやっとしてしまうのは当然のことです。でも、世に出るものは一発勝負じゃないんですよね。金メダルはいきなり獲れるわけではありません。だから、同じテーマを深めたり違うテーマにトライしながら、懲りずに何度も何度も応募してほしいです。そうすれば、写真は絶対に良くなりますし、審査員にも名前を覚えられます。

 

則武:

スマホが体の一部になっている時代に、こちらが写真の考え方を固定して待ち構えていてもしょうがないのかなと思います。みんなすごい速度で写真をアップしているなかで、意を決して作品を世に出だそうという人は少ないのかな。

でも、そんななかでも、新鮮な写真に出会えることがあります。今、70~80年代の日本で生まれた音楽がシティ・ポップと呼ばれて流行っていますが、それをいいと思って聴いたり自分の表現に取り入れている若者を見ると、むしろこちらも新鮮な気分になるんです。そんなふうに、若い世代だからこそできる表現にまた会えたらうれしいです。

 

谷:

僕は何でも受け入れる姿勢なので、思い切ってボールを投げてきてほしいです。本気の写真や新しい写真に出会いたいので、どんどんチャレンジしてほしいです。そのための写真出版賞なのですから。

 

 

 

 

以上、第8回写真出版賞の審査員による講評トークでした。

すべての作品のコメントはお伝えできませんでしたが、自分の作品がどんな感想を持たれたのか気になる人は、ぜひ出版社とのミーティングに参加してみてください。

また、第8回で受賞したすべての作品の情報は、こちらの結果発表のページをご覧ください。