【第1回写真出版賞 アート部門】審査員コメント

写真出版.com

2019/05/20

3月末、第1回写真出版賞の最終審査が行われました!
ここでは、アート部門の審査員のコメントを掲載します。
受賞した方のみならず、応募した方、第2回以降応募予定の方もぜひ参考にしてくださいね。

~最優秀賞~

谷今日子「MYSELF」

・紛れもない若い作者である女性がそこにいて、生きることの揺らぎ、悲しさ、生々しさを活写しています。

・身近な被写体で思うがままに動く自分をどう撮影するか、それは内面の作業。その作業の様子がわざとらしさを感じさせないレベルで行われているのは、作者の強さといえるかもしれない。描き出されている世界は私たちが生きている世界なのだが、そこが光と色彩が舞い踊る世界であることを示してくれているように思います。

・自分の姿というのは自分では見えない。作品を見た時にお化粧をするように自分を表現しているセルフポートレート写真集と感じました。

イケダサトル「no where / now here」

・写真から伝わる力を感じました。地域に生きること、命をはぐくむこと、死が隣り合わせにあること、新しく年齢を重ねる命とその命が輝くことが伝わってくる作品です。

・作者の意図がしっかり伝わってくる秀作です。今の時代、どういうカタチで出版すべきか、編集者が答えを迫られます。見たこともないほど美しい作品がいくつもあり、それは作者の端正な表現によるものと感じています。

一球入魂の作品が連なっており、またそれぞれのつながりもでこぼこした感じがなく、良いです。それぞれがいろいろな世界を見せてくれているような作品で、アート作品が連なっている印象を受けました。

・どこでもない、今ここにある作者の眼差しが伝わってきました。“今ここ”ということに堆積した時の重さも感じられます。昔の写真が挿入されているのも“今ここだ”というテーマが強調されていて、面白いと思います。

~優秀賞~

達也「one scene」

・モデルを撮影した作品集。ドキッとさせられる表現もありますし、ありきたりなものもあります。テーマ性がいまいち感じられないのは写真の選び方と並べ方、キャプションなどの文字情報がないところもあるでしょう。本として編集していく中でポートレート作品集として良いものに仕上がる可能性があります。

・写真が面白いという熱気が伝わってきますが、もう少しいろいろと工夫の余地があると感じます。

・いずれも美しい写真で、若い女性の美しさ、はかなさ、色気といったものを技巧を使って際立たせていると思います。写真の教科書の事例集を見ているような感じで、少しもったいないですが、これだけ力のある方ですから、それこそ物語写真絵本などテーマを与えて制作してもらったら、何かいいものを生み出してくれるのではないかという予感があります。

速水土岐文「Bleached Dawn」

・1枚の写真を示すことによって、示されなかった物語が浮かんでくる傑作。後半に射し込む光で表現される希望と絶望、そしてその両者の淡い表現には感動を覚えます。

・見えないものが映っている写真集。社会的不審者と作者はアイロニカルに言いますが、生きとし生けるすべての者たちが存在する世界を揶揄(やゆ)するように、そのことでかえって強く形象化して描き出したものだと私は思います。ここに漂う空気感は確かに、知っています。しかし、知らないふりをして生きているのは恥ずかしさを覚えます。

・この世は美しいというのは幻想で多分に老いる者、汚れる者、汚されるものに満ち溢れています。その世界を前提にして生きることで、命の在り方を探ろうとしている作品と感じました。

杏子「ポートフォリオ」

・ヨーロッパを舞台にした1000年単位の歴史の重圧を感じさせる作品。これらから何を読者に伝えるか、もう少し考えるとさらに面白いと思いました。

・構成は再考が必要で作品にムラがありますが、撮影地の空気が感じられてそのうえで語らぬものが語りかけてきます。人物が出てくる写真が1点ありましたが、それの有無や理由などでも評価は変わってきそうです。ガイドブック的にもっと言ってくれると分かりやすいような気がします。

・ため息が出るような絶景の数々。人や民族などの文化的な要素を入れたほうがいいか迷うところです。風景との出会い方や外国的な要素を入れて編集すると、手に取りやすいものになりそうです。デザインブック的なものに仕上げるのもいいかもしれません。応募作品以外の写真も見てみたいです。

橋本テツヤ「Strangers」

・ワンダフルなマジックアイ。驚きに満ちた映像をどう伝えたらいいか、デザインがカギになると思います。装本も含めてどのような本にしたらいいのか、写真を見ながらあれこれ考えさせられました。モノクロの中で差し色のようなカラーに誘われます。後半にいくにしたがってカラーが増えていくのも面白いです。高いレベルで視覚的な刺激が心地よい作品です。視覚の魔術師だと思いました。

・タイトルは「Strangers」ですが、見知らぬ人たちもつながっているというテーマを感じました。初めずっと左方向に流れていく人たちが関連性を持ったモチーフを使いながら続いていきます。ちょっと右に行くのだけれども、また左に行きます。でも今度は右方向にどんどん流れていって、上下が出てきます。最後は天からの視点で終わります。という強大な作品です。

・絵が明確な作品。光と影と構図的な美しさと、単純に「Strangers」なので見知らぬ人たちのスナップ写真。背景はもともとある壁なのでしょうか。それに合わせるというのも面白いですが、貼るなどして自分自身の世界を作っているとしたら相当面白いです。もしご自身で工夫されているのであれば、それが明確にわかるような仕掛けになっていたら良かったです。でも全体的に高く評価したいと思います。

~奨励賞~

野兎「陰影」

・エモい作品。被写体を上手にとらえていて、情感を上手く表現しています。

・美しく撮影できています。陰影を使った美しさを表現しようという試みが見えてきます。より良い作品にするのであれば、彼女の背景やストーリーがもっと見えてくるといいと思います。

・「陰影」というタイトルの意図を汲み取ることが上手くできませんでした。モデルの人間をもっと表現できたほうが良かったと思います。

中川智貴「大自然の中で」

・それぞれの写真の中にはとてもいいものもあり、写真を自然の中で撮影する喜びが伝わってきます。ただ構成は再考する必要があります。

・いい作品がたくさんあるので、テーマを決めてまとめれば、より強く訴えられる本になると思います。絶景写真集といったジャンルに当てはまる写真でしょう。写真ごとにコメントしたいものもありますが、タイトルがないため、それもかなわず残念です。

・大自然とうたっていますが、人間的な立場から大自然を表現している違和感やざわつきがあり、そこが逆に、面白いと感じました。私でしたら、“地域”や“地方”といったものをほうふつさせるので、そういったテーマや切り口にして編集していきたいです。

第2回写真出版賞への応募はこちらから